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痛烈な風刺と娯楽の巨匠 ― ポール・バーホーベン監督を語る

こんにちは、藤宮・アーク・紗希です。
わたしが映画の世界を旅していると、ときどき「これは娯楽映画の顔をした社会批評では?」と感じる作品に出会うことがあります。その代表格こそ、ポール・バーホーベン監督。派手なアクションや挑発的な演出で観客を魅了しながら、その裏には必ず“毒のあるユーモア”や“鋭い風刺”が潜んでいるのです。今日はそんなバーホーベンの魅力を、いくつかの代表作とともに辿ってみましょう。

監督プロフィール

ポール・バーホーベン(1938年オランダ生まれ)
ヨーロッパでキャリアを積み、『ソルジャー・オブ・オレンジ』(1977)で国際的に注目されます。
80年代にハリウッドに進出し、アクション大作やスリラーで鮮烈な足跡を残しました。
近年は再びヨーロッパに拠点を移し、人間心理を鋭く描く作品を手がけています。

代表作とバーホーベンらしさ

ロボコップ』(1987)

近未来のデトロイトで、殉職した警官がサイボーグとして蘇る――一見すると単なるSFアクションですが、その実態は「巨大企業が公共を飲み込み、人間性を失わせていく社会」の風刺。
テレビのニュース風パロディやブラックユーモアは、バーホーベン流の皮肉たっぷりです。

トータル・リコール』(1990)

アーノルド・シュワルツェネッガー主演、火星を舞台にしたSFアクション。
主人公クエイドは退屈な日常から逃れるため「仮想記憶の旅行サービス」を利用しますが、やがて自分が誰であるのか、現実と幻覚の境界が揺らいでいきます。

この映画の面白さは「記憶=アイデンティティ」という哲学的テーマを、ド派手なアクションと特殊効果で包み込んでいる点。
バーホーベンは観客に「これは現実? それとも夢?」という問いを突きつけながら、最後までスリルと笑いを両立させます。

氷の微笑』(1992)

サスペンススリラーの金字塔。セクシュアリティと権力を武器にしたシャロン・ストーンの妖艶さは、公開当時大きな話題を呼びました。
バーホーベンはここでも「欲望」と「支配」の関係を巧みに描き出しています。

ショーガール』(1995)

ラスベガスを舞台に、夢を抱いてやってきた若い女性ノミが、ショービジネスの世界に飛び込み、権力・嫉妬・欲望に翻弄されながらのし上がっていく姿を描いた作品。
一見すればきらびやかなエンターテインメント映画ですが、その実態は「アメリカンドリームの裏側」を毒々しく描いた辛辣な風刺です。

その露骨さや挑発的な表現は批判も浴び、**ゴールデンラズベリー賞(最低監督賞)**に選ばれるという事態に。

普通の監督なら無視して済ませるところですが、バーホーベンは違いました。
なんと自ら授賞式に出席し、壇上で堂々とトロフィーを受け取ったのです。
これがゴールデンラズベリー賞史上、初めての授賞式でのトロフィー授与となりました。
バーホーベン監督が「蝶からサナギになった気分だ」と、笑顔でトロフィー受け止めるその姿は、潔さとユーモア、そして“漢(おとこ)”としての格を感じさせました。

スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)

地球軍と昆虫型エイリアンの戦争を描いたスペースオペラ
表面的には痛快なSFアクションですが、よく見ると「軍国主義プロパガンダ映画」を真似た風刺作品。
ナチス風の制服やプロパガンダ映像は、観客に「これを本気で楽しんでいいのか?」と問いかけます。

インビジブル』(2000)

透明人間を題材にしたSFスリラー。ケヴィン・ベーコン演じる科学者が透明化実験に成功しながら、次第に人間性を失っていく姿を描きました。
表面上は派手なVFXが売りのハリウッド大作ですが、バーホーベン自身はこの作品に**「作家性を発揮できなかった」**と強い失望を語っています。

ロボコップ』や『トータル・リコール』の頃にあった鋭い風刺は影を潜め、スタジオ主導のエンタメ路線に押し流されるような形となり、監督は次第にハリウッドそのものに幻滅していきました。

その後、彼はアメリカ映画界に見切りをつけ、再びヨーロッパへ帰国。以降のキャリアではより自由度の高い作品づくりに舵を切ることになります。

『ブラックブック』(2006) ― 復活の記念碑

帰国後の第一作『ブラックブック』は、第二次世界大戦下のオランダを舞台にしたスパイ・サスペンス。
レジスタンスに加わるユダヤ人女性を描きつつ、「善と悪に分けられない人間の複雑さ」をリアルに描写しました。

ハリウッドで得た娯楽性と、ヨーロッパならではの重厚なテーマ性を融合させたこの作品は、批評家から高く評価され、国際映画祭でも喝采を浴びました。
ショーガール』で転落した監督が、見事に復活を遂げた瞬間です。

エル ELLE』(2016)

フランスに拠点を移してからの復帰作。ゲーム会社の女性社長を主人公に、加害と被害の曖昧さを描いた衝撃作です。
バーホーベンは年齢を重ねても挑発をやめず、観客に不快さと魅力を同時に突きつけます。

『ベネデッタ』(2021/2023年日本公開)

舞台は17世紀イタリアの修道院。修道女ベネデッタは神秘的な体験を語り、人々を惹きつけていきますが、その裏では権力欲と肉欲に飲み込まれていきます。

信仰と禁欲の場であるはずの修道院を、エロティックかつスキャンダラスに描く――これぞ「バーホーベン節」。
聖と俗、崇高さと欲望のせめぎ合いを、あえて挑発的に描くことで、観客に「人間の本質とは何か?」を問いかけます。

この作品はカンヌ国際映画祭でも話題となり、賛否を巻き起こしましたが、彼にとってはいつものこと。批判と賞賛を浴びながらも、それを堂々と笑い飛ばすバーホーベンの姿勢は健在です。

 

ポール・バーホーベンは、ハリウッドでの栄光と挫折を経てなお、自らの挑発的な作風を失わずに映画を作り続けてきました。
ロボコップ』で社会風刺を、『スターシップ・トゥルーパーズ』で軍国主義を、『ベネデッタ』で聖と俗の欲望を――。
常に観客を挑発し、考えさせ、時に笑わせるその姿勢は、「映画界の永遠の異端児」と呼ぶにふさわしいでしょう。

そして現在、彼は**『Young Sinner』**という新作を準備中。舞台はワシントンD.C.、内容は政治を絡めたスリラーになるとも噂されています。
80歳を超えてなお挑発をやめない監督が、再びアメリカの地でどんな物語を描き出すのか――。
**「バーホーベンがアメリカに返り咲くのか?」**その答えは、もうすぐ私たちの前に現れるかもしれません。